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「ブリティッシュ・スタイル」とは何か?【オーダースーツの基礎知識】


既成品のスーツと違ってオーダースーツを作る時には、フィッターに採寸してもらい会話をしながら、あなたに合った最高の一着を仕立てていくことになります。ただし何着も仕立ててもらった常連のテーラーならまだしも、初めてスーツをオーダーするテーラーに全てお任せというのはあまりおすすめしません。スーツを着るときには必ず目的があり、その目的に合ったスーツを作るには、いつ、どんな時にスーツを着用するのか、テーラーにも知ってもらう必要があるからです。

フルオーダーの仕立て服店を「ビスポーク・テーラー」とも呼びますが、「Be Spoken」つまりお客様と「会話をする」という言葉が元になっています。この「会話」というのが、スーツをオーダーする時に、成功するか失敗するかを決めるポイントになります。

また何のイメージも持たないままテーラーに行くよりも、どんなスーツを作りたいのか、自分である程度イメージをしておくと会話もスムーズに進みます。熟練のテーラーは、お客様のスーツ作りの目的や、好みをそれとなく聞き出してくれますが、それでもテーラーは魔法使いではありません。

せっかく何週間も待ってオーダーしたスーツが出来上がってきた時に

「こんなはずじゃなかった…」

と後悔したことはありませんか?

「オーダースーツを買って本当に良かった!」

と満足していただくためにも、予め作りたいスーツのイメージを持っておくことは重要なのです。

そのために基本知識として押さえておいていただきたいのが、イタリアとイギリスの2つの大きなスーツスタイルがあるということ。今回はイギリスのスーツスタイルである「ブリティッシュ・スタイル」について解説します。

ブリティッシュ・スタイルとは?

英国紳士が好んで着用するスーツスタイルを「ブリティッシュ・スタイル」と呼びます。イギリスはなんと言ってもスーツ発祥の地です。スーツの起源には諸説ありますが、少なくとも1846年にヘンリー・プールがサヴィル・ロウに店を構えたときには始まっているので、歴史は170年以上にもなります。

ちなみに「サヴィル・ロウ」とは、ロンドン中心部にある、テーラーの集まるストリートのことです。古くはナポレオン三世やチャーチル首相などもこの地で服を仕立てていました。日本でスーツを意味する「背広」の語源が「サヴィル・ロウ」だという説もあるほどです。さきほど名前の出た「ヘンリー・プール」は、そんなサヴィル・ロウ最古のテーラーとして、世界中のテーラーから尊敬されています。

ブリティッシュスタイルの起源

細かい点は後述しますが、まずは見た目の印象がカチッとしていて重厚感を感じるのがブリティッシュ・スタイルの特徴だと考えて良いでしょう。軽くて柔らかい印象のイタリアン・スタイルとは真逆のイメージです。ではなぜ、イギリスでこのようなスーツスタイルが出来上がったのでしょうか。

実はイギリスとイタリアのスーツスタイルの差は、国の風土や国民性に起因するものだとも言われます。

イギリスは日本と同じ島国で、雨が多く、冬は寒い気候の国です。地中海沿岸にあり、ほぼ1年を通してカラッと晴れているイタリアの気候とは大きく異なります。このようなイギリス独特の気候に適しているのが、ブリティッシュ・スタイル特有の厚手でハリのある生地です。

またイギリス人は、同じ英語圏のアメリカ人と比べても、控えめで真面目なイメージがあります。日本と同じくロイヤルファミリーを戴くイギリスは、伝統と格式を重んじる歴史の長い国でもあります。何事にも楽観的で積極的なアメリカ人よりは、むしろ同じ島国の日本人に気質が似ているかも知れません。

そんなイギリスの風土に適し、イギリス人の性格に合うように発展してきたスーツが、ブリティッシュ・スタイルなのです。

ブリティッシュスタイルの特徴

肩パッド

肩パット

ブリティッシュスタイルは、構築的でカチッとキマるのが特徴です。肩にもしっかりとしたパッドを入れるので、上部が立体的な構造になります。ブリティッシュ・スタイルは時に「重厚な鎧」に例えられますが、肩パッドはその形容に相応しい要素です。またしっかりとした肩パッドを入れることで、胸周りに軽く張りをもたせることができます。

コンケープ・ショルダー

コンケープショルダー

袖山の盛り上がった独特のラインは「コンケーブ・ショルダー」(コンケープド・ショルダー)などとも呼ばれます。ブリティッシュ・スタイル以外のナチュラルなショルダーラインとは型紙から違うのですが、近年ではこのようなコンケープ・ショルダーを作る技術者が少なくなっているとも言われています。本来はなだらかに傾斜しているはずの肩のラインをピッと上向かせることで、精悍な印象を作ります。

毛芯

毛芯

聞き慣れない方も多いかも知れませんが、毛芯とは襟や胸の前辺りの生地の中に形を保つために入れる素材のことです。量販店の既成スーツでは、毛芯を使わず接着芯と呼ばれる簡易なものを使用している場合もあります。毛芯にも様々な種類がありますが、本来のブリティッシュ・スタイルでは質の高い動物性の毛芯を用いることが多く、胸周りにより重厚感が増します。ちなみに馬の尻尾の毛を使った芯を「本バス芯」と呼び、最高品質の毛芯とされています。

Vゾーン

ブリティッシュ・スタイルはVゾーンの角度が浅く、ネクタイやシャツをあまり見せないのが特徴です。これによってフォーマルな印象を与えます。イタリアン・スタイルが深いVゾーンで胸元を強調するのに対して、ブリティッシュ・スタイルは対照的です。

もともと英国紳士たちは、自分が特別な階級であることを認め合うためにスーツを着ていたとも言われています。つまり個性をアピールすることが目的ではなく、グループに属していることを知ってもらうことがスーツを着る目的でした。ある意味で脱個性の象徴と言えるのかも知れません。個人の価値観を最大限にアピールするイタリアン・スタイルとの違いは、このような歴史も関わっているのでしょう。

ウエスト

イタリアン・スタイルと比べて、ブリティッシュ・スタイルはウエストのシェイプが高めになっています。絞りを高くすることで体のラインを強調しすぎず、そして引き締まった男らしいシルエットに仕上げます。

ポケット

あまりスーツに詳しくない方が、パッと見てブリティッシュ・スタイルかイタリアン・スタイルかを判別できるポイントとして腰ポケットの角度があります。ブリティッシュ・スタイルのポケットは斜めに切れ込みが入っており、特別に「スラント・ポケット」または「ハッキング・ポケット」などと呼ばれます。

ポケットの切れ込みが斜めに入っている理由は、英国紳士が乗馬をしていた頃の名残で、元は乗馬中にポケットを使いやすいように設計したものだと言われています。今ではスーツを着て乗馬をすることは滅多にありませんが、それでも英国紳士のこだわりを継承したスラント・ポケットには、胸の厚さを強調したりスマートに見える視覚効果もあり、より男性的な印象を与えてくれます。

生地の特徴

イタリアと比べ雨が多く湿度の高いイギリスでは、湿気に強くへたりにくい生地が好まれてきました。2本の糸を撚り合わせ、均一な糸にしたものを「双糸」と呼びますが、この双糸を使った生地が多いのもイギリス生地の特徴です。双糸を使うことで、より丈夫なへたりにくい生地になります。つい形にばかり目が囚われがちですが、イタリアン・スタイルとブリティッシュ・スタイルの違いは、生地の差も大きいのです。

「イギリス生地」「イタリア生地」という言葉があるように、生地でも両者は真逆の特質を備えています。

大まかにイギリス生地の特徴を説明すると

・織りがしっかりしていて分厚い

・ハリがある

・シワになりにくい

・耐久性が高い

・復元力が高い

このような点が挙げられます。

派手な色で光沢を帯び、ドレープ感の強めなイタリア生地に比して、イギリス生地は少し地味な印象があるかも知れません。確かに一見すると目立たないような色使いや柄が多いのですが、実は多くの種類があって奥が深いのもイギリス生地の特徴なんです。

バンカーズ・ストライプ

イギリス独自の柄の代表格に、ロンドンのバンカー達が愛用したと言われる「バンカーズ・ストライプ」があります。紺の明るい色にダブルストライプが入ったものがその典型です。

クラシックなブリティッシュスタイルの中で少々目立つその柄は、デキるビジネスマンらしい信頼感を与えつつ、見る人に若々しさやアグレッシブな印象も与えます。

チェック

イギリスと聞けばチェック柄が思い浮かぶ人も多いほど、有名なイギリスを象徴する柄です。イギリス王家の儀式で、女王陛下を守る近衛兵がタータンチェックを着ているのを見たことはありませんか?彼らが身につける赤地に緑や黄色のラインが入ったロイヤルスチュワートは、威厳と華やかさを併せ持つイギリス王家御用達の柄です。

タータンチェックを着こなすのは少々難易度が高いかも知れませんが、格子の細かいグレンチェックなどは、服地の定番の一つです。一着は揃えておきたいスーツです。

代表的な生地メーカー

スキャバル/SCABAL

1938年、オットー・ハーツによりブリュッセルで設立された服地メーカー。

アメリカの映画界と提携をし、「007 カジノ・ロワイヤル」ではダニエル・クレイグに、「タイタニック」などで、レオナルド・ディカプリオに服地を提供したことでも有名です。

幅広い商品を扱う中でも、特に高級品に関しての素材・商品開発には目を見はるものがあります。ダイヤモンドやラピスラズリ等の鉱石類を生地に練りこむ発想は、我々の目を楽しませてきました。

フィンテックス オブ ロンドン / Fintex of London

1881年にジョージ・ペンドルが、ロンドンにて営業を開始した服地メーカー。服地のロールスロイスとも言える最高品質の生地を取り揃えています。

FINTEXは、FINE(素晴らしい)TEXTURE(織物)を意味し、昔から王侯・貴族・政治家・名士が愛用してきました。極端な流行を追うことを避けたコレクションの内容は、英国のトラディショナルなパターンを中心としています。風格のある優れた品質の生地は、イギリス人の考える最高の服地です。

ダグデール ブラザーズ / Dugdale Bros & C

1896年にヘンリー・パーシー氏とフェデリック・Hダグデール氏の二人が、英國毛織物産業の中心地でもあるハダースフィールドにて始めた服地メーカー。

シックな生地合いのものが多く、伝統的な英国調の柄を中心に展開しています。また、シワに強く仕立て映えし、長期間お召しいただける生地を多く揃えています。

ウェインシール/Wain Shiell

イギリス最初の英国服地マーチャント(商社)の一つ、1807年創業の老舗企業です。ロンドンの紳士服のメッカ「サヴィル・ロウ」に拠点を置き、「洗練された英国らしさ」をコンセプトに、大人の紳士のための服地を作り続けています。

昔からの英国生地を思わせる、しっかりとした生地合いと英国伝統の色柄のものが多く、懐かしさと親しみを持てる生地をお選びいただけます。

ここで紹介したメーカーは、どれも信頼できる技術で最高品質の生地を提供しています。もちろんどのメーカーの生地も銀座英國屋で取り扱っており、お客様の目的とお好みに沿った生地をご案内いたします。

また弊社では、イギリス生地だけで30以上のメーカーを取り揃えております。店頭にてぜひお客様の目で品質をご確認ください。

こういう方におすすめ

ブリティッシュ・スタイルは古臭い、面白みがない、という偏った印象を持たれていることも多いのですが、実際には全くそんなことはありません。伝統を重んじるブリティッシュ・スタイルですが、時代に応じて少しずつ変化もしてきました。そのため現代に生きる我々が着ても、古くさい印象にはなりません。

もちろんロンドンの熟練テーラーが仕立てるスーツは、そのテーラーの持つ雰囲気や伝統へのリスペクトも含めて、間違いなく世界最高峰の、あなただけのオーダーメイドスーツに仕上がります。しかしさすがに、毎回サヴィル・ロウに仕立てにいくわけにもいきません。

銀座英國屋は1940年に創業した、日本を代表する、本場ブリティッシュ・スタイルのスーツを提供する店舗です。2020年の執筆時点で、創業80周年を迎えました。

我々オーダースーツの専門店は、ただスーツをお売りすることだけが仕事とは考えておりません。今回解説しましたイギリスやイタリアなどのスーツスタイルの違いはもちろんのこと、取り扱うそれぞれ生地のご案内や、お客様の体型、そして着用するシチュエーションに合わせた最適なスーツのご提案など、スーツを仕立てて本当によかった、と思っていただけるようなサービスを心がけております。

ブリティッシュ・スタイルは威厳や厳格さをアピールし、男性らしさを突き詰めたビジネスに最適なスーツです。今回の記事を読んでご興味を持たれた方は、ぜひお気軽に銀座英國屋へお問い合わせください。

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