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グループ縫製 水沼工房長の紹介


フルオーダースーツと聞くと、どうしても「一着のスーツを一人の職人が縫い上げる」イメージが強いと思いますが、銀座英國屋では「品質の向上」などを目的に「グループ縫製」にも力を入れています。

一着のスーツを基本的に一人の職人が縫い上げる方法を、専門用語で「丸縫い」と言います。一方、グループ縫製とは、工程を複数に分け、その工程ごとに担当する職人を決め、一着のスーツを縫い上げる方法のことです。

今回はそんな銀座英國屋の縫製をより知っていただきたく、グループ会社である「オーダースーツ縫製工房(エイワ株式会社)」の水沼工房長のインタビュー記事を掲載させていただきます。ぜひ最後までご一読ください。

※グループ縫製に対する詳しい解説は以下のコラムをご覧ください。

・フルオーダースーツなら絶対、丸縫い?銀座英國屋の縫製のこだわり

ファッションに興味を持つキッカケ

※以下、インタビュー

子どもの頃から服は身近にあったのだと思います。姉が洋服好きだったこともあり、小学生の頃から洋服を買いに出かける時、姉について行っていました。もちろん、まだその頃は、服を作りたいという気持ちはありませんでしたが、姉の影響もあり、徐々にファッションに興味を持つようになったんです。

専門学校での気づき

服飾の専門学校に入る頃には、ファッション関係の仕事に就きたいと思っていました。目標は芸能人や雑誌のスタイリストでした。流行(ファッション)を作るスタイリングの仕事をしたいというのが、山形から上京した理由です。

でもその夢も、専門学校に入ってすぐ挫折しました。スタイリストはまずアシスタントとして仕事を始めることになるのですが、その間はなんと無給なんです。そういう現実をしって、厳しいと思いました。当時、専門学校には480人くらい生徒がいたんですが、今、スタイリストとして働いている人は2~3人です。

自分の得意分野

専門学校に入学して半年が経った頃、縫製の授業を受けていた時の話です。何気なく縫製していたら、意外と上手にできたんですね。それで、自分でも縫製に才能があるのかなと。その時、先生にも褒められたんです。

当時の先生には「入る科を間違えたわね」なんて言われました。また先生からは「教員になったらいいんじゃないの」というアドバイスもいただきました。縫製もできるし、指導も向いてるんじゃないかと。

卒業後、2~3年で専門学校に教員として戻るつもりで就職しました。一度働いてから、戻ってきて先生をやろうと思っていたんです。

紳士服の縫製こそ目指す道

専門学校を卒業して入社した会社では、プリーツの加工や開発を担当しました。しかし、会社の私への期待とは異なり、やはり自分は縫製をしたいという思いが募り、辞めることになりました。

自分が好きなものがコートやスーツ、ジャケットなどの重衣料だということもあり、紳士服の縫製を一から習得するために、オーダースーツ業界に足を踏み入れることにしました。

銀座英國屋に入社

銀座英國屋に入社しました。1年、2年と年数を重ねていくと、いつしか教員に戻るというつもりもなくなり、この仕事を極めていこうと思ったんです。オーダースーツ業界でトップを目指していこうと。この新しい目標を叶えるには10年かかる、覚悟を決めてここでやっていこうと思いました。

オーダースーツというのは、縫製の世界ではトップの存在です。奥が深くて、気づいたらハマってしまって抜け出せない。そんな魅力に気づかせてくれたのが、最初の上司であった水本先生(銀座英國屋の最高縫製技術者)でした。

最初の1年間はどんなことをしていた?

入社直後から1年間はグループ縫製の中で、スーツの中でも比較的重要な箇所である、衿付け・袖付けをやらせていただきました。

当時の水本工房(水本先生にOJTで教育を受ける社内選抜チーム)は、カリキュラムもしっかりしていて、縫製の技術を教えてくれるのです。同僚もそこで経験を積んでいたので、自分も頑張ってぜったい工房へ行きたいと思っていました。自分以外に若手が4~5人いたんですが、行けるのはたった1人です。それも「技術がある人間だけ」だと言われていました。

結果としては私が水本工房へ行くことになるんですが、荒関さんという上司が後押ししてくださったことも大きいです。後から聞いた話では、面接の時から私を気にかけてもらっていたようです。

入社から1人前の縫製職人として社内独立するまでの4年間(グループ縫製1年間+水本工房3年間)がとても大変でしたが、同時にすごく充実していた4年間でもあります。

水本工房の日々

水本先生の指導が、本当にわかりやすかったんです。しっかり理論立てて話してくださるような教え方でした。一から、手取り足取りやっていただきました。

教育現場として、実際、お客様のスーツを縫製しながら教えていただきました。失敗もたくさんしましたが、「失敗をこうやってカバーするんだよ」という修正の仕方も教えていただきました。基本の縫製だけじゃなく、応用力も含めて指導していただきました。

水本先生の服作りに対する指導は、メリハリがしっかりしていました。水本先生の下、ほぼマンツーマンの中で、私は1日中指導されたことを引きずっていたりするんです。でも先生は公私をしっかり分けられているので、仕事が終わったら気さくに話してくださいました。そのお陰でメンタル面も沈むことなく、プラスの気持ちで過ごせました。毎日怒られっぱなしでしたけど(笑)。

広く美的センスを磨く

銀座英國屋には職人がいっぱいいますけど、水本先生はその中でも特に見た目にこだわっていたと思います。社外も含め、いろんな職人さんを見て、また製品も見てきましたけど、やっぱり水本先生の美的感覚にとても惹かれます。スーツだけではなく、先生は普段から美術館に行ったりしていて、「スーツだけでなくモノに対しての美的感覚を仕事外でも磨くんだよ」と教えてもらいました。

私も水本先生のように広くセンスを磨く努力をしています。元々ファッションは好きで、作るのも買うのも好きですから。オシャレに対しての意識は人一倍強いと思います。そうしたことが仕事にもつながりますし。

生活の全てが縫製

当時は、就業時間後も縫製していました。一日でも早くスーツ作りをマスターしたかったので。生活がすべて縫製という感じでしょうか。ずっと働いている感覚ですね。家には寝るためだけに帰っていたような。休みの日も家で縫っていました。毎日、7時半には会社にいて夜は9時まで働いていましたが、そんな生活が楽しかったんです。

製品にできたことの喜び

基本的に縫うこと自体が好きなんです。1日1日ステップアップして、習得していくことでやりがいも感じていきました。製品になってアウトプットできた時、ようやく一着できるようになったんだなと。形にしただけなんですが、仕上がったときは、感動でした。

心に残っているエピソード

自分が作った製品が多くの人に評価いただけることが一番です。お客様はもちろんのこと、スタイリスト(店舗の接客担当)からもフィッター(店舗のフィッティング技術者)からも評価された時は嬉しいですね。

中でも「綺麗だね」と言われることが喜びです。自分が一番目指していることなので、そこで評価をもらえることはシンプルに嬉しいです。

「綺麗」なスーツとは?

フィッターさんの描かれた線(製図)をそのまま形にする、ということです。フィッターさんも自分の考えがあって、そう仕上げたいと思って線を引くはずです。そのフィッターさんの思いを読み取ってうまく合致した時、製品に仕上げられた時が、綺麗なスーツだと思います。

・フルオーダースーツのフィッターに聞いた!仕事の内容とやりがいとは?
https://service-eikokuya.jp/blog/?p=63

水本先生には勝てない?

1人前になるまでに4年間くらいかかりましたが、水本先生にはまだまだ及びません。経験値や培ってきたものは抜くことができないですから。でも気持ちの面では越したい!と日々想っています。

全て自分の責任だからこそ

水本先生の下にいたときは先生が責任を持ってくださいましたが、1人前の縫製職人として社内独立したら修正する時間も他の時間を削ってでもやらなくてはいけません。店とのやりとりも、直接自分がスタイリストさんやフィッターさんとやらなくてはいけなくなりました。責任と同時に、良いものが仕上がればよい評価をもらえるというのはやり甲斐でもあります。

嬉しかったエピソード

中には一筋縄ではいかない仕事もあります。仕様がとても特殊だったりして、スタイリストさんも頭を悩ませるような、職人さんも引き受けたがらないような仕事です。私はノートは言えないので、自分のできる最大限を使って引き受けてきました。それが良い方向にいって、「特殊なものは水沼に回せばやってくれる」と言ってもらえるキッカケになりました。

特殊なものとは、例えばお客様が写真を持って来られて「これと同じように作って」とか「こういう素材のもので服を作ってくれ」などと注文されるケースです。

今では当たり前ですけど、ジャージー素材だったりとか合皮が入ったりとか、アニメキャラクターが着ているコートとかダッフル、トレンチなどは職人が嫌がることもあります。そういう難しい仕事とかを担当させてもらっています。この工房で工房長職に就いた後も、特殊なものは今も回ってきます。

工房長に

社内独立して6年後に、現職である工房長に就任させていただきました。でも話を受けるまで、想定もしていなかったんです。重責に押しつぶされそうな気持ちにもなりました。でも当然ながら、会社の利益が我々の給料の源です。ですから利益がなくなってしまえば、縫製も成り立ちません。「今自分がやらなければ」と思って引き受けさせてもらいました。就任して4年経った今も、責任に押しつぶされそうな時もありますが、大きな視野で使命感を感じて努めています。

日々改善と移り変わり

技術と人間関係

技術についてですが、以前はただ洋服という形にしているだけだったと思いますが、今は、自分で「理論立ててやる」ことを特に意識しています。これは水本先生の教えでもあります。

グループ縫製と丸縫いとでは、根本的にやり方が違います。グループ縫製では、グループ縫製に合ったやり方で理論立てて縫製していくとことを重視しています。例えばミシンのかけ方など、小さなことの積み重ねで仕上がりの良いものが出来ていきます。

後工程をイメージする

今自分のやっている作業を漫然と行うのではなく、その先の仕上がりをイメージしておくことが大事です。事あるごとに技術を高める話をすることで、社員一人一人が後工程を考えて作業するようになりました。

丸縫いのように一人だけで一着を仕上げてしまえば楽なのですが、グループ縫製の場合、後工程のことを考え、製品になっていくとを考えて一人ひとりが作業をしていかないと、毎日が流れ作業になってしまいます。気になったことがあれば、「次は、こう改善しよう。」と言うことを日々意識づけてきました。

あとはそれの繰り返しです。その時にしどうして改善できても、1か月後にはまた同じようになってしまうこともあります。気づいたことはその場で修正していくようにしています。

人との関わりを改善

この仕事は最低限、縫製が出来ればいいのですが、やっぱり人間関係が一番大事だと思います。人間関係がしっかりしていないとコミュニケーションもとれませんし、情報が班長から社員全体にまで伝わりません。情報がしっかり全ての社員に届くようにするには、日頃から人間関係を作っておくことが必要なんです。

コミュニケーションの工夫

工房では、一日の中でお昼や休憩時以外に、人と会話することはあまり多くありません。黙々と作業をやっています。放っておくと本当に会話をしないまま終わってしまうので、最低限のことは社員と話すようにしています。

また、「きちんと説明をする流れ」も大切にしています。例えば班長がメンバーに説明していなかったりすると、連携が難しくなってしまいます。なので、部長から班長に説明をし、それを班長が社員に説明するように整えています。基本的な流れですが、小さなことでもきちんと説明しておかないと社員には届かないこともあるのです。

私の指導も、以前は班長を通さず直接行っていました。それを一度、班長を通すようにするなど、その辺の連携、信頼の築き方はこの4年間で学んできました。大きすぎず、小さすぎずの工房なので、報連相はとても大事なんです。

信頼できるプロフェッショナルな社員たち

以前は何かを頼む時、一から言わないとやってくれないことも多かったのですが、今では変わってきました。班長クラスもしっかり育ってきて、信頼できます。社員も技術力が高いので、ある程度共有すればできるようになってきました。班での流れもわかってきて、自分で考えてやれるようになってきています。

私が難しそうだということも、理解してくれて形にする対応力や技術力はすごく高いです。ちょっと説明しただけで私の言ったことを汲み取ってもくれます。さすがプロ軍団だと感じますね。

社長との距離が近いという魅力

フルオーダースーツ縫製工房の魅力の一つが、社長との距離の近さです。入社の時から近い存在だったので取り立てて気にもしていませんでしたが、自分の周りの人に社長のことを話すと驚かれることもあります。

他社では、社長との距離が遠すぎて会ったこともなかったり、ましてや話をしたことすらなかったり。そういう話を聞くと、我社は社長との距離が近いんだなと実感します。会社の方向性なども分かりやすいので、距離の近さは大事だと思います。

これから挑戦してみたいこととは?

オーダースーツ縫製工房というのは銀座英國屋のグループ会社なんですが、あくまでも銀座英國屋とは別会社です。銀座英國屋グループとしての立ち位置と、オーダースーツ縫製工房単体での立ち位置をいつも考えています。

銀座英國屋として「オーダースーツ縫製工房という ‘工房’ を持っていてよかった」と思える仕事をしたいですし、オーダースーツ縫製工房単体でしっかり利益を生みたいと考えています。社長だけでなく、銀座英國屋や工房の社員全員に「オーダースーツ縫製工房があって良かった」と。それが数字的にも見えるような会社にしたいです。私が動いて発信して、銀座英國屋グループ全体がより利益が出るような体制になっていければな、と。

ウィズコロナの展望

昨今のコロナ禍では、ファッション業界も大きな打撃を受けています。

中でもオーダースーツ業界は大きな打撃を受けていて、会社をケースも耳にするようになりました。これからもっと増えていくのではないかと危惧しています。きょうも実際、「縫製できるところがなくなった」との連絡を受けました。このように行き場を失うケースが増えてくるのではないかと思います。

テーラーさんや、行き場をなくした方々とも向き合って、この業界を守っていきたいです。服飾業界全体を守りたい。それがこの業界に対する恩返しかなと。縫製工房自体も少なくなってきていますので、危機感と使命感を感じながら仕事しています。

仕事で大切にしている言葉は?

「巧遅は拙速に如かず」

銀座英國屋からお客様のことを良く知る助っ人として異動してこられた加藤部長にいただいた言葉です。仕事の出来が良くて遅いよりは、出来は悪くても速い方がいい。同じことを考えている人がいたら二番手になってしまう。まずは進むことが大事。そのようにアドバイスをいただきました。

その言葉を常に意識しています。アクションを早く起こしたい、と。色々なことに速く取り組んでいきたいですね。

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